築地本願寺 大江戸編

江戸の夕方、ちーこと蒼井07 大江戸街歩き物語
江戸の夕方、ちーこと蒼井

江戸の海を埋める知謀と、御坊に灯る祈りの灯火

時は徳川幕府が江戸の街にその政治的基盤をしっかりと築き上げつつあった元和・寛永の気配が漂う頃。 まだ浅草の浜チヌを臨む海沿いの地、のちに「江戸御坊(浅草御坊)」と呼ばれることになる宗教的拠点の程近く。初秋の爽やかな潮風が吹き抜ける夕暮れの中、武士の羽織姿に身を包んだ蒼井(当時の姿をした若き日の藩士)と、町娘の装いをしたちーこが、のちに築地本願寺のルーツとなる境内へと続く潮騒の小道を並んで歩いていた。

「ねえ、蒼井さま。この江戸御坊のあたりも、そして幕府を裏から支える本多正信さまが奔走した政治の舞台も、みんなこうして新しい江戸の街づくりと人々の心のよりどころを両立させるために、一生懸命だったんだよね」 ちーこが朱色の細い木製の柵にそっと手を添えながら、初秋のひんやりとした海風にコートの裾をキュッと引き寄せた。

その隣で、鋭く周囲の気配を配りつつも柔らかな目を向けていた蒼井は、携帯していた古い江戸城下や浅草周辺の縄張図を懐にしまい、静かにうなずいた。 「ああ。表通りでは大名たちが武威を競い合い、天下泰平の世が形作られているが、その政治の裏側には、多様な宗教勢力との折衝や都市のインフラ整備といった膨大なマネジメントが必要だった。本多正信のような知恵者たちが巧みにバランスを取りながら、江戸という巨大都市の基盤を整えたからこそ、こうした御坊の存在も守られてきたんだ」

天下泰平の世が形作られていく一方で、政治と宗教の緊張感あるバランス。その過酷な環境の中で、幕府の政策を支えながらも、民衆の心の拠り所である信仰の空間をいかに守り抜くか――その知恵と祈りが、この江戸御坊の礎となっていた。

「大きな城郭や大名屋敷のニュースもすごいけれど……こうして人々の暮らしや海のすぐそばで、小さなお堂や御坊にそっと手を合わせるこういう時間こそが、一番心に染みるのかもしれないね」 ちーこがフッと柔らかく微笑みながら小さな木彫りの動物の飾りを取り出すと、蒼井は少し照れくさそうに視線を逸らした。

「……まったくだ。だが、どんなに時代のうねりが激しくても、こうして前を向いて歩いていくしかないからな。行くぞ、ちーこ」 「うん!」

海の向こうから差し込む初秋の夕暮れの光が、江戸御坊の堂宇とふたりの背中を優しく包み込む。 江戸から東京へと受け継がれていく歴史のレイヤーのなかで、誰も知らない静かなワンシーンの中で、ふたりは確かな絆を胸に、新しい未来へと続く潮騒の小道へと歩みを進めていくのだった。