上野東照宮 大江戸編 江戸初期の静謐と、社殿を護る決意

江戸の朝、ちーこと蒼井08 大江戸街歩き物語
江戸の朝、ちーこと蒼井

時は江戸時代初期、寛永年間の頃。 上野の山の深奥に突如として出現した壮麗な東照宮は、徳川の威光を天下に示すとともに、新時代の平和と安寧を祈る聖地として厳かな空気をまとっていた。

まだ周囲の木々が若く、社殿の金箔が真新しい黄金の輝きを放つ境内。 参拝の列が途切れた夕暮れの静寂の中、身なりを整えた町娘の姿をしたちーこと、お供として同行していた役人風の出で立ちの蒼井が、重厚な唐門の前に佇んでいた。

「ふう……何度見ても、この金色殿の圧倒的な美しさは息をのむわね。日光まで行かずとも、江戸のすぐそばにこんなにも素晴らしいお宮があるなんて、本当に驚きだわ」 ちーこが手拭いでそっと汗を拭いながら、うっとりと社殿を見上げる。

蒼井は腕を組み、かつて藤堂高虎の屋敷地であったこの土地が、天海の手によってどのように生まれ変わったのかを思い描きながら静かにうなずいた。 「ああ。徳川家康公の遺言をうけて建立され、この上野の山を鎮護する最大の結界として造られた場所だからな。その気宇は伊達ではない」

「ねえ、蒼井さま……」 ちーこがふと表情を和らげ、蒼井の袖を軽く引っ張った。 「このお宮は、これからの江戸の平和をずっと見守っていくんでしょうね。どんなに世の中が変わっても、この黄金の輝きと人々の祈りだけは、いつまでも色褪せないでほしいな」

ちーコのまっすぐで温かな眼差しを受け止め、蒼井はゆっくりと視線を社殿の奥へと向けた。 「そうだな……。為政者がどんなに大きな権力を示そうとも、そこに込められた平和への願いや、この美しさを未来へ繋ごうとする人々の意志がなければ、建造物はただの飾りで終わってしまう。お前が言う通り、この輝きを護り抜くことこそが、この時代に生きる者たちの務めなのかもしれないな」

西日が沈みかけ、空のグラデーションが深い藍色へと移り変わっていく。 総金箔塗りの社殿が夕闇の中にぼんやりと幻想的な光を放つその景色の中で、蒼井はそっと自分の手を差し出した。

「そろそろ冷えてきたな。帰るぞ、ちーこ」 「はい、蒼井さま」

差し出された温かな手に、ちーこはふわりと笑顔を咲かせて自分の手をしっかりと重ね合わせた。 徳川の祈りが込められた厳かな杜のなかで、ふたりの絆もまた、時代を越えて確かな未来へと結ばれていくのだった。