飯倉熊野神社・参拝短編ストーリー

飯倉熊野神社、ちーこと蒼井 short_novels(短編)
飯倉熊野神社、ちーこと蒼井

翌日の午後。

チーコのスマートフォンに、一通のメッセージが届いた。

陸からだった。

昨日、取材用の連絡先を渡していた。

《試合、行きました。》

その下に写真。

少年たちがグラウンドで肩を組んでいる。

陸もユニフォームではないが、端に写っている。

《後輩がPK止めました。》

さらに続く。

《僕が昨日教えた方向に飛びました。》

チーコは思わず笑った。

「蒼井」

編集作業をしていた蒼井が振り返る。

「何だ」

スマートフォンを見せる。

蒼井は写真を見て、小さくうなずいた。

「八咫烏になれたな」

「ね」

「ただし、一回教えただけで調子に乗るなと伝えておけ」

「そういうところ」

「何が」

「いい話を最後に現実へ戻すところ」

「現実のほうが大事だからな」

数日後。

チーコと蒼井は追加撮影のため、再び飯倉熊野神社を訪れた。

授与所のサッカー御守を撮影していると、チーコが言った。

「私も一つ受けようかな」

「サッカーしないだろう」

「前にも言った、それ」

「では、何に使う」

「道に迷わないように」

「スマートフォンの地図を使え」

「人生の」

蒼井の手が一瞬止まった。

チーコは笑う。

「冗談」

「そうか」

「半分くらい」

「どっちなんだ」

参拝を終え、鳥居を出る。

チーコは先を歩いた。

十数メートル進んでから振り返る。

「蒼井、こっち?」

「反対だ」

「え?」

「駅はそっち」

チーコは慌てて戻る。

「八咫烏、仕事してないじゃない」

「御守を受けてないだろう」

「じゃあ蒼井が導いて」

「仕方ないな」

「ちゃんと最後まで?」

蒼井は歩き出した。

「少なくとも駅までは」

チーコはその隣へ並ぶ。

「その先は?」

「必要なら考える」

「ふうん」

「何だ」

「別に」

麻布台の空に、東京タワーが見えていた。

二人の後ろでは、八咫烏が今日も静かに鳥居を守っている。

勝つ人だけを導くのではない。

負けたと思って立ち止まる人も。

別の役割を見つけようとする人も。

そして、自分の行く先をまだ決めていない人も。

進む方向が見えるまで、そこから見守っている。

チーコは歩きながら、隣の蒼井をちらりと見た。

彼も似たようなものかもしれない。

そう思ったが、本人には言わなかった。

言えば、きっとまた、

「俺は烏じゃない」

と言うに決まっているからだ。