第二章 向き合う狛犬
麻布氷川神社へ着いたのは午前九時四十分頃だった。
鳥居をくぐると、街の空気が一段だけ静かになる。
朱色の社殿。
木々。
神楽殿。
神輿庫。
そして、向き合うように置かれた二体の狛犬。
「いた」
チーコが嬉しそうに言った。
「前にも見ただろ」
蒼井が答える。
「今日は六人だから違う構図が撮れる」
チーコはすぐにしゃがみ込んだ。
「近藤君とまゆみさん、少し向こう」
「僕たち?」
「狛犬の間を歩いて」
近藤君とまゆみさんが顔を見合わせる。
「何か恥ずかしいですね」
「普通に歩くだけよ」
ヤヨイが横から、
「チーコさんの『普通に』は信用しないほうがいいですよ」
と言った。
「なんでよ」
佐久間が小さく笑う。
「過去の実績です」
「佐久間君まで」
蒼井は映像カメラを準備した。
「チーコ、まず境内の基本カット」
「分かってる」
六人で参拝。
その後、取材を分担した。
チーコと蒼井は境内と祭礼映像。
佐久間とヤヨイは由緒・古写真・祭礼資料。
近藤君とまゆみさんは参拝者や地域の人への聞き取り。
ケロはオンラインで文献と過去記事を探す。
「きれいに分かれた」
まゆみさんが言う。
「今回は全員働きますね」
近藤君が答える。
チーコが振り向いた。
「いつも働いてるでしょ」
「チーコさんは半分写真、半分寄り道」
「写真が仕事なの!」
蒼井が、
「寄り道もかなりある」
と付け足した。

